《BY パックマン》
ボクシングは面白い。ミドル級タイトルマッチ。
だが「チャベスJr Vs マルチネス」というスーパースター同士の戦いには、試合前になぜかいつものようなワクワク感が無かった。
マルチネスは文句の付けようがないオールマイティータイプ。
一方のチャベスJrは偉大な父親とそっくりのインファイター。
ミドル級にしては2クラス以上もありそうな立派な体躯をしているのに、頭を付け懐にもぐりこんでから打ち合うスタイルに、最初の頃はいろいろ言っていた評論家も、そのスタイルのまま無敗でチャンピオンまで勝ちあがったチャベスJrに何も言わなくなった。それは仕方がない。結果が全てである。
しかしそのスタイルはやはり私には違和感があった。
試合が始まるとマルチネスはいつものように軽快なフットワークと自由自在に操る重いパンチを繰り出す。チャベスはガードを固めて懐にもぐりこむ隙をうかがう展開。
誰もが「いつかはチャベスJrが強引にマルチネスを追い詰めインファイトに持ち込む」だろうと期待していたが、マルチネスのパンチに予想以上の力があったのだろう。鼻血を出したチャベスは持ち味の強引な攻めが出ないまま最終回を迎えた。
チャベスJrが、偉大な父親とそっくりなスタイルを身に付けたのは父親を尊敬しているからだろう。
そのスタイルで勝ち続けたが、マルチネスには通じなかった。
試合前は選手は自分の勝ちを信じている。コーチやセコンドも自分の選手を信じている。
だが一人だけそれに不安を持っていた人物がいたとしたらチャベスJrだったと思う。
父親とそっくりのスタイルを身に付けたがそこに居るのは父親ではない。
自分が父親になれない以上、本当の自信が身に付くはずはない。
そこに落とし穴があった。
父親と同じ翼を持つ若い鷲は本当の自分の力を知らない。
翼は本物ではなかった。
もう後が無い最終回、チャベスJrは負けを覚悟で強引に打ってでた。
偉大な父親の影をヨチヨチ着いてきた鷲が負けを認めて初めて自分の翼を広げた。
パンチが当たる。2発3発、あのタフなマルチネスがもんどりうってっ倒れる。
早い回ならこれで終わたであろうが、これは最終回。
どんなに倒れようが最後に立ってさえいれば大差の判定で勝てるマルチネスは気力で立ち上がる。
若いチャベスJrも疲れで大振りになり、仕止め切れないままついにゴング。
この試合チャベスJrは大差の判定で敗れた。しかし彼は自分の本当の力に気が付いた。
若鷲はついに自分の翼を手に入れた。この敗戦は偉大なボクサーが誕生した試合であった。
確かにマルチネスは偉大なダイヤモンドベルトのチャンピオンである。
華麗なフットワーク・パワー・テクニックでJrを圧倒した。だがその半面、とんでもないボクサーを目覚めさせた勝利でもある。
もう二度とチャベスJrに挑むことは無いだろう。
かない。