by ハッチョ
カトマンズの商人【其の二】
「シャチョウサン、シャチョウサン」今度はなんだろう。
「白檀の木の‘たて笛’30ドルで買ってくれ」少年が笛を吹きながら、彼もまたカニ歩きでついてくる。
25ドル、20ドル、 「確かに白檀の香りはする」
15ドル、10ドル 「音もでてるし、どうせ土産も要る」
つい言ってしまった 「10ドル(1100円位)なら」
「まいどおおきに!」そのうれしそうな顔を見れば、言葉はわからなくとも浪花商人よろしく、彼がそう言っているのは間違いない。
一緒に歩いていたTが「日本円で1000円でも売るんちゃうか、どや」
いつのまにか、買う方も浪花商人のようになっている。
(悲しいかなこの時我々二人は日本円1000円は、ネパールの貨幣価値でいうと2~3万円の値打ちがあるということをすっかり忘れていた。ガイドのラメッシュ君は心得たもので、そばにいても何も言わない。赤塚不二夫じゃなjけど「それでいいのだ」)
「OK おおきに」
全く躊躇することなくTからお金を受け取った彼と目が合った。
Tより高い買い物をさせられた私に、こぼれるような笑顔で再び釣糸をたらす。
「あなたはとっても良い人」(当たり前だ、ここが日本なら差額を返してもらうところだ)
「高く買ってくれて私はうれしい」(そりゃそうだろう)
「だから私もあなた喜ばしたい。」(やはり同じ人間、いいところがあるじゃないか)
私は期待に胸を膨らます。
私を出し抜いたつもりのTも横で聞き耳を立てる。
「喜んでくれ、あなたには特別にこの笛を3本10ドルで売ってあげる。どうだ嬉しいだろう」
思わずズッコケそうになった。
底抜けに明るい顔でこの図々しさ。日本人にはまねのできないカトマンズの商人魂は尊敬に値する。
「2人がさっき買った笛を返すからその3本10ドルの奴をくれ」
心の中で叫ぶが、悲しいかな口に出して言えない。日本人は”シャチョウサン”なのだ。
カトマンズではいい香りだと思った白檀の香りが、日本に帰って家族に見せると「クサイ!クサイ!」と即座にお蔵入りになった。私も嗅いでみたが自分の鼻を疑った。
それ以来、私が旅行に行く時は「お土産買ってきたらいかんよ」というのが妻の見送りの言葉になった。