by ハッチョ
翌朝、午前7時出発。
ひなんクラブ総勢10名は、朝食もそこそこに、レンタカーでアラスカ観光に出発した。憎きテロリストのおかげで、観光できるのは今日1日しかない。
≪メンバー紹介≫ニーノ、O-NOさん、トッチャン、ハッチョ、としはる(以上男性)、マーちゃん、チヨさん、いそチャン、ユミ君、カズちゃん(以上女性)。
我々の目的は、一応元登山部らしく”山”である。
但し、登って征服しようなんて大それたことは誰も考えない。
「車で行けるなら車で行けるところまで行って、決して無理はしない」これである。
「御大クマさんを連れて行く以上、ご老体に無理をさせ大事に至っては申し訳ない」
これが、我々”出来の良い教え子”の間での公式見解である。
ところが、残念ながら今回の旅行に”御大”は同行していない。ご不幸があり参加できなかったのだ。その御大が来られなかった唯一の海外旅行でテロ事件が発生したのである。
遠く日本でニュースを聞きながら我々のことを心配していたそうだ。
しかし我々くらい御大との付き合いが長くなると判るのである。
「御大は意外とミーハーで、珍しいものが大好きである」事はお見通し。
口さがない教え子たちは、
「こんな派手な旅行に来られなかったクマさん、今頃絶対歯軋りして悔しがってるわ」
あいにくの天気だ。雲が架かってマッキンリー山(現地名デナリ)は見えない。残念!
ニーノは運転が得意だ。アラスカには舗装されていない道も結構あったが、その砂利道を常時100キロ以上のスピードでぶっ飛ばす。
今日一日しか時間が無いせいではない。いつもこの調子なのである。
次々に観光地を巡るのだが、あまりに目まぐるしく、どこをどう走っているのか全く判らない。
天気もすぐれない中、我々を乗せたバンは全力疾走でアラスカの大地を駆け抜けてゆく。
途中で”トシハル君といそチャン”が、あまりの暴走にたまらず、
「もう止めて。死にたくない!」と後部座席から叫ぶ。
そういえば”としはる君”と”いそチャン”は初めてこの旅行へ参加回した”初心者”。
他のメンバーは何も言わない。言わない(言えない)理由は二つある。
一つは、今までの経験からニーノの運転をある程度・・・いやかなり信頼している。
もう一つの理由は、「スピード出しすぎじゃない」なんて言おうものなら、不思議なことに車はグングンとスピードを増すのを知っているのである。
だからとりあえず走っている間は何も言わない。(止まっても言わない)
何を隠そう、ニーノは旅行中一日二回スピード違反で捕まったことがある。パトカーに止められ「免許証を出せ」といわれると「遠い日本から来て(サー)、今日帰る予定で急いでいる(サー)」と全ての語尾に必ず「サー」を付ける謙譲英語で嘘(?)をついて二度とも無罪放免になった。
夜になっても車は疾走していた。よっぽどアンカレッジから遠くまで言っていたようだ。1時間走っても何も変化のないアラスカの道だ。午前0時頃だったと思うが、何もないので真っ暗な夜道でトイレ休憩。てんでに茂みで用を足す。
突然トッチャンが叫ぶ。「みんな車に戻れ!茂みの中に何かおるぞ!」
最初トッチャンはメンバーの誰かが茂みの中で・・・と思ったという。
でも見まわしていると全員いるようだ。で「こりゃアブナイ」となった。
全員車に戻ったことを確かめて「そこの茂みの奥から音がする」
車の中からサーチライトを照らすと、
・・・いた!ムースのメスだ!いやもう一匹。どうやら子供のようだ。
親子で食事をしている。しばらく草を食べていたがライトに嫌気がさしたのか森の中に消えていった。
ムースで良かった。もしあれがクマだったら大惨事になったかも知れない。
考えてみれば危ないよなあ。ゾーッとする。
ホテルに帰り着いたのはなんと午前様の4時。実に20時間以上走り続けた事になる。走行距離は1000キロ近いはずだ。いや超えてるかもしれない。まるで耐久レースのようで、皆もうクタクタ。
ほんと、トシハル君じゃないけど 「死ぬかと思った!」
仮眠をとってあわただしく出発の準備。
飛行機もそうだが、旅行社も一応「超々強行軍」ではあったが旅程はこなした。(これで払い戻しはなし)旅行社の社長としてニーノのは責任を果たした。しかしあの体力はバケモノだね。普通じゃない。
9.11に遭遇した「普通じゃない旅行」はこうして終わった。
しかしこの旅行に隠されていた恐ろしい秘密はズーット後になって明らかになるのです。
次回最終回、乞うご期待。(大袈裟だねぇ)
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