金木犀

by もう老年

ついこの間、ほんの半月前まで
まるで秋らしくなかったのに
急に寒くなった今年、

ふと気がつけば
金木犀の
あの甘やかな香りに
つつまれた記憶がない。

もの心ついた頃から
「私は、他の誰よりも
木犀の香りを愛している」
心秘かにそう思っていた。

しかし今年、そんな私を置き去りにして
一瞥もくれず季節は私のそばを通り過ぎたのだ。

実に気前よく
当たり前のように与えられていたものを、
ある時を境に前触れもなく奪ってしまう。

残酷な、あまりにも残酷な仕打ちではないか。

秋の日の終わりに、諦めるしか術はない私よ
ああ、もう風の声に耳を傾けるのはよそう。
静に静に落日を待つのだ。

コメント

コメント(1)

  1. まだ青年

    この世に生を授かっただけで儲けものなのに、「もう老年」にもなって益々お盛んなようにお見受けします。

    こんなエッセイが書ける「もう老年」さんはよほど幸せな人生を送って来られたようで、出来る事ならば私もあやかりたいものです。

    返信

コメントする

投稿前の注意

  • 他の人に不快感を与える投稿や誹謗中傷するようなコメントはおやめください。
  • コメントを投稿する前によく読みなおして投稿しましょう。





ピックアップ

ピックアップ記事一覧へ

セミナー紹介

イベント紹介

リンク集